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  • 通信:海ゴミに関する国際シンポジウム報告(2011年05月28日)

    ※「美しい海をこどもたちへNo.20」(一般社団法人 JEAN、2010年12月発行)より転載。この原稿は、2010年12月に執筆されたものです。

    愛媛大学・沿岸環境科学研究センター・教授 磯辺 篤彦  

     平成22年9月23日の午後に、愛媛大学グリーンホール(松山市)にて、海ゴミの中でも特にプラスチックゴミによる海洋汚染について、国際シンポジウムが行われました。国内外6名の講演者が最新の研究成果を披露することで、近年、ますます深刻さの度合いを深める海ゴミ問題の科学的側面について、最先端の研究成果を共有することが目的です。

     最初に講演を行った私は、平成19年から21年にかけて実施した東シナ海・海ゴミプロジェクトの成果(本紙既報)を報告し、さらに平成22年から24年に環境省の環境研究総合推進費で実施する新プロジェクト「海ゴミによる化学汚染物質輸送の実態解明とリスク低減に向けた戦略的環境教育の展開」の紹介を行いました。ともにJEANの皆さんとの協働研究プロジェクトです。我がチームのように市民調査を取り込んだ本格的な海ゴミ研究プロジェクトの成功例(環境省の最終評価でA+)は世界的にも珍しいため、その成果はシンポジウムに参加した研究者からも高い評価をいただきました。特に、前プロジェクトで開発したライブカメラ(ウェブカメラ)を用いた漂着ゴミのモニタリングシステムには、多くの研究者が強い関心を持ったようです。

     続いてJames Leichter博士(米国・Scripps海洋研究所)から、北太平洋東部に形成される直径が数百kmの巨大な渦、”North Pacific Gyre”に集積する海ゴミの調査結果について報告がありました。ただし、大海に比べれば小さな海ゴミの集積が目に見えて顕著なわけではなく、浮遊ゴミが疎らに目視される、いうなれば「ゴミのスープ」といった様相を呈しているとのことでした。しかし、巨大な渦に集まるゴミの総量は莫大なものになり、かえって問題の深刻さを目に見える形で社会に認めさせることの難しさがあるようです。

     次に講演された高田秀重教授(東京農工大学)は、プラスチックゴミに吸着する残留性有機汚染物質に関する先駆的な研究成果を権威ある学術論文誌に次々と発表されている、当分野における世界のトップランナーのお一人です。これまでの研究成果を紹介される中で、汚染物質の吸着量はプラスチックゴミの浮遊する海域周辺で決まるとの指摘は非常に興味深いものでした。岸近くでプラスチックゴミに吸着した汚染物質は、清澄な外洋を漂流するに従ってプラスチックから離脱し、ゴミが再び岸に近づく際に、その場の汚染物質を新たに取り込む可能性があることを、高田教授は指摘されました。

     Chelsea Rochman氏(米国・San Diego State University・University of California)は、口頭発表者中最年少で、現在は博士課程の学生です。メダカにプラスチックゴミを摂食させた場合の生存試験や、実際の内湾にプラスチックゴミを吊り下げ、長期間放置した場合の汚染物質の吸着状況調査など、実践的な研究の多様な展開は、海ゴミ問題にチャレンジする若い研究者の意気込みを感じさせるに十分なものでした。

     続いて、Mark Browne博士(アイルランド・University College Dublin)から、径1mm以下の微細プラスチック片(マイクロプラスチック)による海洋汚染について、これまでの研究成果の報告がありました。イガイの体内に含まれる数ミクロンのプラスチック片を可視化した博士の研究は専門家の間では非常に有名です。今回、改めてその画像をみると、微細プラスチック片が既に生態系の中に組み込まれている実態は、やはり衝撃的なものでした。

     最後に、三宅裕志博士(北里大学)からは、「しんかい6500」のような深海潜水艇を用いた深海ゴミの調査結果について報告がありました。1982年より現在までに撮影された膨大な画像のアーカイブ・データを、深海におけるゴミの集積状況の変動解析に用いる研究に着手されたとのこと、まさに海ゴミ研究に関する新しい方法論の登場です。潜水艇を保有する海洋研究開発機構(JAMSTEC)が保管する深海の動画データは、http://www.godac.jamstec.go.jp/vcast/から誰でもご覧になれます。皆さんも御自宅で深海ゴミを探査なさってはいかがでしょうか。

     そもそも、海岸から深海に至る海ゴミ問題の主要な原因は、日常生活から排出される生活ゴミです。NGOや学生とともに太平洋のゴミ調査を行っているLeichter博士をはじめ、今回講演された国内外の研究者は、皆が研究成果の社会還元を強く意識していました。これは、海ゴミの環境負荷を顕わにする研究成果を社会と共有することで、一人一人のゴミ排出量の削減を社会のコンセンサスにする以外に、海ゴミ問題解決への道はないことを、世界中の研究者が認識しているからでしょう。この意味で、私たちが進めてきた市民との協働は海ゴミ研究に必須であることを、このたびの国際シンポジウムは再認識させてくれました。

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