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レポート:タバコの吸殻/フィルターの散乱ゴミ問題を追う

2010年06月01日 カテゴリ:2002 , クリーンアップレポート

※「クリーンアップキャンペーン2002レポート」(JEAN/クリーンアップ全国事務局、2003年発行)より転載。この原稿は、2003年に執筆されたものです。

取材 JEAN 大倉 よし子

 

-東京都千代田区と日本たばこ産業株式会社の見解を交えて-

 JEANが毎年秋に行う国際海岸クリーンアップ(ICC)キャンペーンで毎年最多ゴミ品目としてあげられるのが「タバコの吸殻/フィルター」です。2002年も回収個数第1位の座を明け渡しませんでした。総合ではプラスチック破片13%に対し、18%と、5%の差があります。今回は海中調査でも第1位です。2001年のICC結果でも同様です(海中は4位)。

 「破片」類もリストの上位品目です。「発泡スチロール破片」は、1cm3未満と1cm3以上の破片に分けての調査が行われ、それぞれ総合の結果では、小3位(11%)、大4位(9%)ですが、合計すると20%で1位となります。しかし、タバコの吸殻の場合、一つ一つがもともとの「タバコ1本」を指すものなので品目として回収個数が1番多いということに注目する意味があると考えます。

 ここで指摘したいのは、タバコの吸殻がゴミとして存在するのは「ポイ捨て」行為がそのほとんどの原因だろうということです。海岸で見つかる吸殻の一部はその場で捨てられたもののほかに、市街地から水路を経由して海へと運ばれ、海岸に寄せられるものも多いのです。ポイ捨て行為は多くの人が「マナー」や「モラル」の問題として憂慮し、啓発活動をしてゴミを減らそうと取り組む団体や、行政によるポイ捨て禁止条例があります。それにしても、「意識」さえないように捨てる人々に、イメージだけでマナーを身に付けるよう促したり、注意勧告だけでポイ捨てをしないように納得させることはどこまで有効なのでしょうか。

 東京都千代田区では「生活環境条例(正式名:安全で快適な千代田区の生活環境の整備に関する条例)」が2002年10月から施行され、空き缶・吸殻等のポイ捨てや路上での喫煙、置き看板等の放置や落書き、駐車違反等が規制され違反した場合には「過料」が適用される地区が設けられました。歩きタバコは区内全域の路上で禁止され、「路上禁煙地区」での違反には過料2万円以下(当面は2000円)が科せられます。

 ここでは、2月に千代田区で開かれた「第7回全国まち美化シンポジウム」での見聞や、JEANによる千代田区役所環境土木部の質問への回答と、日本たばこ産業株式会社(JT)へのインタビューの内容を参考に散乱ゴミとしての「タバコの吸殻/フィルター」の問題を考察します。

 

罰則のある条例ができた背景と、その運用状況

 千代田区が生活環境条例のなかで「路上禁煙地区」を設け違反者から過料を徴収することに踏み切ったのは、罰則を伴わない条例において人々の「モラル」に期待するだけでは改善が見られないことと、「歩きタバコ」が迷惑なだけでなく火傷などの原因となる危険性を喫煙者が認識していないことが少なくないからだそうです。罰則は「手段」であって、「区に関る全ての人々の理解と協力や安全性、生活環境、人々のマナーの向上が目的」という点が強調されています。区民の認知度は9割以上で、88%が「路上禁煙」に賛成しています。

 とはいえ、「努力義務」だけの条例と違い実際に「過料」を取るとなると、徹底した広報や現場での適切な対処が必要です。区では毎日8~10kmを半日かけて巡回パトロールを行い、注意・指導・罰則の適用に当たっています(写真1:パトロール中の職員。)。これまでの罰則件数は2003年2月16日までで2045件あり、7割近くがその場で払い、全体では8割が納められているそうです。条例を知らない他地域からの観光客も過料の例外とはならないそうですが、目的はポイ捨てや歩きタバコをやめさせることで、2000円を徴収することではないので、無理はしないとのことでした。

 周知のための広報活動に使った予算についても区民の理解が得られているそうです。区の年間予算約500億円に対し、2002年度の「生活環境条例」キャンペーンの予算は1億6000万円。広報活動のほか、巡回指導員、美化団体などへの補助金、そして路面表示、看板に使われました。(写真:シール型路上サイン。一組44,000円で、150ヵ所に貼ってある。この他に塗料を直接吹き付けたものが1000ヵ所にある。)

 「規制をする以上、喫煙所が欲しい」(半数以上)、「吸う場所が無くなる」、「タバコ税を無くせ」「タバコを売るな」といった意見が電話で多く寄せられたことで、千代田区に倣った条例を考えている地方自治体に対して、「とにかく電話での抗議が多かったのでご覚悟を」とのアドバイスがありました。

 条例が施行されて4ヶ月程になり、気になることも出てきたようです。区内5ヶ所で行っている吸殻の定点観測で、条例施行前は秋葉原など数ヶ所で1000個前後を数えていたものが、施行後は激減し、10本程度にまで減ったこともありました。(写真:秋葉原地区の定点観測地点の一つ)しかし、最近は一定以上減らないので改善の必要性を感じているそうです。また、地区外でのポイ捨てが増えたり、区境でタバコに火を付けるので注意すると「区が違う」と返されてしまうことがあるということです。喫煙者の一部は、禁止区域を外れれば関係がないと捉えているようです。

 シンポジウムの会場では、日本でのタバコ生産・販売を行っている会社、日本たばこ産業株式会社(JT)については、JTによるマナーキャンペーンが役立ってきたか疑問、吸殻入れもかえって喫煙を助長しているのではないか、条例は喫煙禁止ではなく「分煙」を求めたものであることを理解していないといったもののほか、JTがまち美化シンポジウムなどに参加してもいいのではないか、何らかの協力があってもいいのではないかといったコメントが出ていました。

 

タバコの吸殻をポイ捨てさせないために有効な施策はあるのか

 JEANからの質問は以下の10項目です。千代田区役所環境土木部土木総務課生活環境担当の方からはFAXで回答があり、過料処分件数や区民からの意見数、定点観察記録などのデータとともに丁寧なコメントが送られてきました。JT営業統括部営業推進部の市場環境担当主任には、JEANの小島と、大倉の二人が面談しました。

(1)タバコの吸い殻が世界的に水辺で見つかるゴミのトップに上がることを知っていたか、また、この事実をどう思うか。
(2)フィルター部分の生分解性についての考え。
(3)吸い殻が自然環境に残された場合の不都合について承知することがあるか。
(4)千代田区の「路上禁煙」についての意見。
(5)これまでの施策でポイ捨てや歩きタバコの防止に有効と思われるもの、あまり有効でなかったもの。
(6)千代田区が条例化した「路上禁煙地区」について。また、施行後の状況はどうか。
(7)「スモーカー」について。利用状況、人々の反応など。また、今後、同様のものを増やしていく予定があるか。
(8)今後の取り組みについての予定。
(9)ゴミ問題解決の対策で提案はあるか。
(10)その他、意見あれば。

 

 千代田区役所環境土木部からは、「個数カウントという手法のためもあるだろうが、海洋ゴミのワースト1がタバコの吸い殻であるというのは驚きです」という回答がありました。JTでは、タバコの吸い殻が多く散乱しているという状況は承知しているし、非常に大きな問題と考え、これまで30年近く取り組んでいるとのことでした。

 罰則適用を条例で定めた千代田区は「モラルに頼るには限界がある」と考えましたが、JTの意見は最終的にはモラルに頼らざるを得ず、吸う人が吸殻の投げ捨てをしないという意識を持たなければこの問題は解決しない、というものです。街の環境美化に貢献するために行っているJTの活動は、各種のメディアを使っての啓発広告、スタンド灰皿設置(スタンド灰皿については提供先の商店街などが管理・維持)や携帯灰皿の配付、そして、全国各地のタバコ販売組合(小売店の組合)との共同による清掃活動の三つだそうです。実際に調査はしていないという断りがありましたが、シンポジウム参加者の意見とは違い、即効性という面では携帯灰皿を配ったり、特に投げ捨ての多い場所にスタンド灰皿を設置する事によって投げ捨てが減るとを実感しているとのことでした。

 JTは2003年1月20日から「スモーカー」と名づけられたトレーラーを一台、千代田区大手町の東京サンケイビル前の広場に設置しました。スモーカーは車両本体や維持にかかるコストの問題もあって、同様のものをいくつも設置するのは難しいようです。

 千代田区の条例にしても、JTのスモーカーにしても、メディアの注目度はどちらも予想以上で、千代田区の回答では最も有効であったのがマスメディアによる報道だとありました。その効果をCM掲載金額に換算すると2億円とも試算されるとか。スモーカーも「あれほど取り上げてくれるとは思わなかった」ほどで、もの珍しさで利用する人も多かったようです。

 

 さて、問題となるタバコの吸殻ですが、そのフィルター部分はセルロース・アセテートというレイヨンによく似た素材です。フィルターメーカーによれば、分解には2年ほどかかり、クリーンアップでも繊維質のフィルターだけが見つかることがよくあります。JTの見解は、フィルターの水溶性を高める技術そのものが吸い心地との兼ね合いもあり難しいということもあるが、吸殻を捨てることを前提とした開発はしたくないし、捨てられないようにしなければならないので、啓発に力を入れたいということでした。製品によってフィルターも違うので、味を変えずにフィルターだけを変えるのは大変難しく、新しく開発するタバコはともかく、既存の製品の全てを変更することは無理だということです。

 では、フィルターがついていないタバコはどうかといえば、こちらの売上げは極めて低いそうです。フィルターによってマイルドな味となり、タールやニコチンも押さえられるわけですが、そのタールやニコチンを含んだフィルターが環境中に排出されるということは水質汚濁が心配され、フィルターが早く分解されるものになっても問題は解決されません。やはり、吸殻を捨てさせないことが肝心です。

 JTは今後「タバコの投げ捨ては絶対いけない」という姿勢で、広く啓発していく必要があるという考えから、メディアでは非喫煙者に配慮した喫煙をPRし、まちでは灰皿の普及や清掃活動を続けると言っています。また、屋内外を問わず分煙を進め、喫煙者も非喫煙者も共存できる空間を、機材を含めての技術面を研究中だそうです。千代田区に対しては、「原則禁煙、ただし、吸う場合は決められた場所で」というルール作りが実行面では有効と提言しているし、そのための協力は積極的にしたいとも言っていました。
 千代田区では平成15年度からは指導員を増強して指定地区以外も巡回指導を実施していく予定だそうです。また、区内在住に限らず、在勤、通学、滞在を含めた「区民」とともに生活環境条例の実効性を上げ、千代田区全域を指定地区の対象とすることも検討中だといいます。

 

まとめ

 千代田区もJTも、タバコの吸殻がポイ捨てされて環境中に残ってしまうことを止めたいと考えていると思います。その手段として千代田区は「規則」へと移行しました。日本でも、分煙が定着しつつあり、喫煙者も携帯灰皿を持つなど非喫煙者への気遣いをする人も増えてきたと思います。しかしながら、日本でも、世界全体でも、ゴミ調査の結果でワースト1という順位から降りない「タバコの吸殻/フィルター」ゴミという現実があります。これまでのゴミ調査で、海岸で見つかるゴミは7割方が陸上での日常の生活活動から出たものであることがわかっています。活動別にゴミの割合を見た2001年の国際海岸クリーンアップの結果では喫煙関係のゴミがおおよそ25%で、タバコの吸殻はそのうちの89%以上になります。吸殻が除かれれば、全世界で回収した22%以上のゴミがなくなるということです。

 ICCを主催する米国のオーシャン・コンサーバンシーがまとめた2001年のレポートには「ゴミの一つ一つ、全ての破片の影には人の顔がある」という記述があります。タバコの吸殻は、このことばを代表するものではないでしょうか。吸殻ゴミが改善されることは、人々の意識の向上を見ることであり、それによって他の散乱ゴミの現状が劇的に変わる可能性があります。

 ポイ捨てや歩きタバコの行為は、街の美観、火災や火傷などの危険性のほかに、野生生物への影響や目に見えない化学物質の危険も考えられます。千代田区の生活環境条例にも日本たばこ産業株式会社のマナー向上への取り組みにも、そこまでの危惧は含まれていません。環境問題として取り組む個人や団体は情報の収集と公開、あるいは行動を示すという役割があると思います。メディアがその情報を伝達すれば、個人・行政・企業を動かすこともできるでしょう。それを受けて市民と行政が安全性や環境保全のためのルール作りをすれば、企業も経済利益を考慮した上で環境配慮を考えるのではないでしょうか。

 JEANも、世界の仲間たちも、根気強く調査するクリーンアップを続け、得た情報を公開してきました。それによって、各方面の方々が海洋散乱ゴミの問題に理解を示し、注目してくださるようになりました。タバコの吸殻は重量的にも分量的にも小さなものですが、その個数の多さに人々が気付き、これを押さえることができれば、生命のふるさとの海はずっときれいなり、地球は美しい水の星として私たちを育んでくれるはずです。

 

※「クリーンアップキャンペーン2002レポート」(JEAN/クリーンアップ全国事務局、2003年発行)より転載。この原稿は、2003年に執筆されたものです。

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